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日本翻訳協会(JTA)AI宣言


― AI時代の翻訳における専門性・品質・責任の原則 ―

一般社団法人日本翻訳協会(JTA)        


一般社団法人日本翻訳協会(JTA)は、生成AIおよびAI翻訳が翻訳実務と翻訳産業に急速な変化をもたらしている現状を踏まえ、AI時代における翻訳の専門性、品質、倫理および責任に関する基本的立場を、ここに宣言する。

1.基本認識

生成AIおよびAI翻訳は、翻訳、要約、用語整理、情報検索、文体調整、品質確認など、翻訳工程のさまざまな場面を支援し得る有用な技術である。
一方、その出力を十分に検証せずに利用した場合、誤訳、事実誤認、論理関係の変容、文体の不統一、専門用語の誤用、著作権上の問題、機密情報の漏洩、責任所在の曖昧化など、重大なリスクを生じさせる可能性がある。
JTAは、AIを一律に否定せず、また無条件に肯定しない。AIは、翻訳者の専門性を置き換える主体ではなく、人間の判断と責任の下で、適切に管理・評価・活用されるべき道具である。

2.AI時代の翻訳における基本原則

第一原則 AIの出力は「完成訳」ではなく「検討素材」として扱う。

AIが生成した訳文は、それだけで納品可能な成果物とはみなさない。翻訳者または責任ある担当者が原文と照合し、意味、論理、訳語、文体、事実関係、用途適合性を確認する。

第二原則 AIの出力は「正解」ではなく「仮説」として扱う。

AIは自然で説得力のある文章を生成する一方、誤った情報や不正確な訳文を確信的に提示することがある。必要に応じて一次情報、専門資料、用語集、クライアント指定資料その他の信頼できる根拠に基づき検証する。

第三原則 最終的な判断と責任は人間が負う。

AIを前処理、用語抽出、下訳、要約、チェック、文体調整その他の工程に用いた場合でも、最終成果物の品質と適切性に対する責任は、翻訳者、翻訳会社または翻訳プロジェクトの責任者にある。AIの使用によって、その責任が軽減されるものではない。

第四原則 AIの利用範囲を明確にする。

案件の目的、分野、機密性、契約条件、クライアント方針および品質要件に応じ、AIを使用する工程、使用しない工程、人間が確認すべき事項をあらかじめ明確にする。

3.翻訳品質と専門性

AIの技術的な利用障壁は低下したが、その出力を正しく評価するための知的・専門的な要件は低下していない。原文理解、文脈把握、専門用語の選択、対象読者の設定、文体判断、文化的配慮、事実確認は、引き続き翻訳者の中核的専門性である。現在のAI翻訳は、表面上きわめて自然に読めるため、誤りが見えにくい。流暢さは正確さを保証しない。JTAは、自然さだけで翻訳品質を判断せず、原文との対応、意味の正確性、論理的一貫性、専門分野への適合性および目的への適合性を総合的に評価することを重視する。翻訳者に求められるのは、AIに代替されないための抵抗ではなく、AIを適切に使い、疑い、検証し、必要に応じて修正し、また使用しない判断を下す能力である。

4.情報管理・著作権・倫理

翻訳案件には、未公開情報、契約文書、個人情報、医療・法務・技術情報その他、外部サービスへの入力が不適切な情報が含まれる場合がある。AIの利用にあたっては、利用規約、データ保持、学習利用の有無、保存場所、アクセス権限その他の条件を確認し、機密保持義務および個人情報保護を徹底する。著作権、翻訳権、利用許諾、引用、成果物の帰属その他の権利関係について、適用される法令、契約および業界慣行を尊重する。AIの利用が成果物の品質、権利処理、機密保持または説明責任に影響し得る場合には、関係者間で利用方針と責任範囲を明確にする。

5.資格・検定における考え方

JTAが実施する翻訳関連資格・検定では、各試験の目的に応じて、AI利用の可否および範囲を明確にする。原文読解力、訳文作成力、専門知識、文体判断力、表現力など、受験者本人の翻訳能力を評価する試験においては、生成AIおよびAI翻訳の使用を制限または禁止することに合理性がある。一方、翻訳プロジェクトマネジメントその他、AIを含む実務環境での判断力を評価する領域については、AI利用の可否判断、品質管理、リスク管理、情報管理、工程設計および説明責任を、評価対象として検討する。重要なのは、AIを単純に「使用可」または「使用不可」とすることではなく、何を評価する試験であるかを明確にし、その目的に即した公正で透明な運用を行うことである。

6.JTAの立場

JTAは、翻訳者の専門性と翻訳品質を守り、高める立場から、AIの適正な利用に関する指針の整備、資格・検定における運用の明確化、翻訳実務における品質・倫理・情報管理上の課題への対応を進める。AI時代においても、翻訳の最終的な価値を決定するのは、人間による理解、判断、表現、検証および責任である。JTAは、この原則を基盤として、翻訳者、翻訳会社、発注者その他の関係者とともに、翻訳業界の信頼性と健全な発展に寄与する。

2026年7月23日
 一般社団法人日本翻訳協会(JTA)
         代表理事 堀田 都茂樹