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一般社団法人 日本翻訳協会(JTA)は翻訳の世界標準を目指します。

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                CIUTI 調査レポート

         

1.概要
 CIUTI(CONFERENCE INTERNATIONALE PERMANENTE D’INSTITUTS UNIVERSITAIRES DE TRADUCTEURS ET INTERPRETES)は、ベルギー(ブリュッセル)に本拠を置く非営利団体。翻訳および通訳(T&Iと略称される)の高等教育を行う教育機関(大学・大学院)の教育品質の維持向上を目指す国際協会である。発音は「シューティ」。
 第二次世界大戦後、西ヨーロッパの大学の翻訳・通訳学科の交流団体として生まれ、現組織の設立は1960年。
 >>公式サイト

2.組織
・理事会(BOARD)……年4回開催が原則だが、必要に応じて随時開催されることもある。理事長1名、副理事長3名、会計責任者1名、事務局長1名で構成。現在のメンバーは全員ヨーロッパ人(国籍はベルギー[2名]、ドイツ[2名]、スペイン、ロシア)。
・評議会(COUNCIL)……メンバーは6~12名で、総会で選出され、3年ごとに改選される。現在のメンバーは11名で、やはりヨーロッパ人中心(国籍はベルギー[2名]、ドイツ[2名]、イギリス、スペイン、ロシア、オーストリア、レバノン、中国[2名])。
・常任委員会(STANDING COMMITTEE)……以下の4委員会が常設されているが、場合によって臨時委員会が一時的に設定されることもある。(どの委員会も、理事会および評議会のメンバーが、ほぼ兼任している模様)
 ①認証委員会(ADMISSION COMMISSION)……理事会メンバーおよび1~2名の外部専門家で構成される。CIUTIへの入会申請を審査し、入会の可否を総会に答申する。
 ※認証手続きの詳細については、項目6.を参照。
 ②戦略委員会(STRATEGY GROUP)……CIUTIの中長期的戦略を策定する。現在のメンバーは5名(国籍はフランス、イギリス、ベルギー、スペイン、イタリア)。
 ③トレーナー育成委員会(TRAIN THE TRAINERS GROUP)……CIUTIが定めるT&Iの品質基準に即したトレーナーの育成を促進する。現在のメンバーは4名(国籍はロシア[2名]、イギリス、ドイツ)。
 ④地域展開委員会(REGIONAL DEVELOPMENT GROUP)……ヨーロッパ以外の地域へCIUTIの活動を拡大する活動を行っている。現在のメンバーは3名(国籍はオーストリア[2名]、スペイン)。

3.活動
・総会……年1回開催。会員が持ち回りで主催し、従って開催場所も毎回異なる。参加は会員に限定される。
(2014年、2011年の総会は、北京で開催されている。2013年はマドリード、2012年はアントワープ、2010年はライプチヒ、2009年、2003年はジュネーヴ、2008年はヘント[ベルギー]、2007年はベルティノーロ[イタリア]、2006年はソウル、2005年はパリ、2004年はゲルマースハイム[ドイツ]、2002年はベイルート)
・CIUTIフォーラム……原則として年1回、ジュネーヴで開催。翻訳と通訳、多言語コミュニケーションに関するオープンな議論の場(※「オープンな」とされているが、会員以外も参加できるのかどうかは不明)。フォーラムでは、会員に所属する教職員や学生が、T&Iに関する研究発表を行う機会がある。フォーラムの議事内容は、毎回冊子にまとめられ、販売されている(定価はUS$100前後、Amazonでも購入可能)。
・その他、特別なテーマがある場合、随時フォーラムを開催。
・賞の授与……CIUTI Award、CIUTI Prizeなど、T&Iに関する優秀な研究成果に対して、賞を授与している。賞の対象者は、正会員の機関に属する学生。
 ①CIUTI Awardは、2015年から新設された賞で、毎年一人、最優秀の博士論文の著者に対して与えられる(CIUTI Prizeのアップグレード版)。賞金1000ユーロが授与される。
 ②CIUTI Prizeは、毎年三名、T&Iに関する優秀な修士論文の著者に与えられる。正会員からの推薦を受けた候補者に対し、最終的には理事会が受賞者を決定する。受賞者は毎年のCIUTI総会で発表され、最優秀者には賞金500ユーロが授与される。受賞者は研究内容を、その年のCIUTIフォーラムで発表する。2010年以降の受賞者(氏名、大学名、論文のタイトル)は、HP上で紹介されている(中国人が1名、残りはすべてヨーロッパ人)。

4.理念(1995年制定の約款を要約したもの)
・研究と教育を通じて、翻訳と通訳(T&Iと略称する)の品質強化、維持を目指す。
・会員は全世界に及ぶため、文化社会的背景は多様である。そのため、画一的な教育品質を目指すのではなく、多様性の中でのT&I品質の等価性、等質性の実現を目指す。
・T&Iの教育プログラムは、理論分野と応用分野を組み合わせ、実践的訓練と学究的内容をバランスよく融合させたものでなければならない。
・多面的な翻訳のプロの育成を目指し、学生は母国語に優れ、1~2カ国語の外国語の素養があることが理想的である。
・講師は適切なスキルと豊富な学問的背景を有し、プロとしての経験を学生に伝える。
・翻訳者としてもっとも重要なのは文章作成能力であり、さらにターゲット言語の背景である異文化を知悉する能力が必要である。
・様々なジャンル、分野の文章を豊富に扱うことを通して、翻訳の基本と手法を学ぶのが翻訳教育の王道である。
・求められる翻訳コンピテンシーは、以下の通り。
 a.母国語(A言語)のコンピテンシー
  母国語については、自由自在に使いこなせ、CEF(the Com¬mon Euro¬pean Frame¬work of Reference:ヨーロッパ言語共通参照フレームワーク)のC2レベル(つまり6段階の最高ランク)であること。そのレベルに達していない学生には、そこまで引き上げる母国語教育の必要がある。
 b.外国語(B言語またはC言語)のコンピテンシー
  特定ジャンルではプロフェッショナルレベルの理解・活用能力があること、また、その分野に関する情報を迅速かつ的確に調査・入手できるスキルがあること、その分野でのターミノロジーを作成・活用できること。
 c.異文化コンピテンシー
  母国語とターゲット言語それぞれの背景をなす文化・社会に関して知識があること、単なるテキストレベルの言葉の置き換えではなく、社会的文化的背景に配慮しながら「翻訳」できること。
 d.その他、翻訳者としてのコンピテンシー
  理論的知識と実践的スキルの双方に優れ、「結果」と「過程」の双方を重視した翻訳作業ができること。必要な翻訳ツールに的確にアクセスでき、情報リテラシー、コンピュータの活用、プロジェクト管理にも秀でていること。コミュニケーションスキル、協調性、問題解決スキルを身につけていること。
・教育プログラムとカリキュラム
 教育機関は、上記の各コンピテンシーに関し、学究的スキルと実践的スキルの双方にバランスの取れた教育訓練を実施する必要がある。そのような形のカリキュラムを構成し、しっかりと学生が育成できていれば、授与するMA資格にどんな名称を付けようと構わない(例:MA in Lit¬er¬ary Trans¬la¬tion, in Court Inter¬pret¬ing, in Com¬mu¬nity Inter-pret¬ing, in Inter¬na¬tional Man¬age¬ment and Inter¬cul¬tural Com¬mu¬ni¬ca¬tion, in Lan-guage and Tech¬nol¬ogy)。

5.メンバー
 会員資格を得られるのは団体・組織のみであり、個人は会員になれない。正会員と準会員がある。
・正会員……T&Iに関して高等教育を実施している教育機関が対象。申請して、教育品質に関するCIUTIの認証基準をすべてクリアする必要がある。現在、19カ国の45の教育機関が正会員となっている(日本の教育機関はなし)。詳細は下記。
・準会員……CIUTIの理念に賛同する団体組織。入会できるのは、CIUTIが招待した場合のみ。現在、5団体(中国翻訳協会、ノルウェー教育省など)が準会員となっている。
●CIUTI正会員
・オーストラリア(1):モナッシュ大学
・オーストリア(3):グラーツ大学、インスブルック大学、ウィーン大学
・ベラルーシ(1):ミンスク語学大学
・ベルギー(7):アントワープ大学、ルーバン大学、ブリュッセル大学、ヴィンス大学、ヘント大学など
・カナダ(1):モントリオール大学
・中国(4):北京外語大学、北京第二外語大学、広東外語大学、上海国際大学
・チェコ(1):カール大学
・デンマーク(1):オルフス大学、
・フランス(2):パリ第三大学、ISIT
・ドイツ(5):マインツ大学、ハイデルベルク大学、ケルン大学、ライプチヒ大学、ザールラント大学
・イギリス(4):バース大学、ヘリオット・ワット大学、ウエストミンスター大学、ロンドン・メトロポリタン大学
・イタリア(3):ボローニャ大学、リベラ大学(ローマ)、トリエステ大学
・韓国(1):韓国外語大学
・レバノン(1):セントヨセフ大学
・ロシア(4):モスクワ大学、モスクワ外語大学、サンクト・ペテルブルク大学、アストラハン大学
・スロヴェニア(1):リュブリャナ大学
・スペイン(2):グラナダ大学、ポンティフィシア・コミージャス大学
・スイス(2):ジュネーヴ大学、チューリヒ大学
・アメリカ合衆国(1):モントレー国際大学

6.会員認証手続き
 教育機関のカリキュラム、調査研究、インフラ、教育資源について、その品質と品質管理状況を審査の対象とする。審査は次の4つのステップを踏む形で行われる。
第1ステップ……入会を希望する機関は、申請フォームに必要事項を記入し、Eメールで事務局へ送付する。この段階で、申請資格の有無を書類審査する。
第2ステップ……上記にパスすると、正式に審査対象となり、この時点で審査料250ユーロを支払う。教育機関はガイドラインに従って、SAR(自己評価レポート)を作成、提出する。認証委員会がSARを審査し、合格すれば第3ステップへ進む。
第3ステップ……二人の専門家による現地訪問調査が実施される。通常、滞在期間は3日間で、期間中の滞在費用(交通費・宿泊費・食費)はすべて教育機関側が負担する。専門家は訪問調査の結果を認証委員会に報告し、それに基づいて委員会が合否判断を下す。
第4ステップ……上記で合格した教育機関は、次のCIUTI総会に招待され、総会の議決で最終的に承認されて初めて、正式会員となる。

7.考察
 ヨーロッパ、しかも非英語圏で発祥した団体のためか、英語圏(アメリカ合衆国、イギリスおよび英連邦諸国)にはなじみの薄い団体に思える。しかし、歴史も古く、理念もしっかりしている印象を受ける(特に、翻訳者に必要なコンピテンシーの考え方などは、JTAが考えるコンセプトに非常に近いと言える)。また、正会員の顔ぶれを見ても、英語圏ではモントレー国際大学(アメリカ)、ロンドン・メトロポリタン大学、ヘリオット・ワット大学(イギリス)など、翻訳教育では高い評価を受けている大学が並び、規模は小さくとも信頼はできる団体という印象である。
 ただし、英語圏ではマイナー扱いされているのか、ATA、ITI、NAATIといった英語圏の代表的翻訳団体のサイトを見ても、CIUTIに関するリンクや言及は見られない(逆に、CIUTIからリンクを張っている英語圏の翻訳団体も、ATAのみ)。とはいえ、東アジアでは中国や韓国の大学は会員になっているのに、日本の大学が入っていないというのは、寂しい気がする。
 もうひとつ、遠隔教育に関する言及がまったくないことが気になる。この団体が対象としているのは、あくまで大学や大学院といった、オンサイトで翻訳・通訳の教育を実施している機関に限られるようだ。