電脳英単語

連載第1回 板垣政樹

コンピュータやIT関連のマーケットは拡大する一方。IT市場の翻訳者の需要は今後もますます増えていくはず。最新のIT用語の訳例を紹介するとともに背景となる技術的知識も探っていく連載企画。あなたもIT翻訳者に挑戦してはいかがだろう。

Web Service (Web サービス) Part 1

 コンピュータがネットワーク機能を急速に拡充するとともに新しいIT・コンピュータ技術がめまぐるしく登場しています。本連載では、IT分野における新技術、新傾向の用語を取り上げ、訳語や背景などについて詳しく解説していきます。スタートとなる今回は Web Service (Web サービス) について解説します。Web サービスといっても発展途上の技術であるため、たぶん耳にしたことがない方が多いと思います。ただ、今年2002年は Web サービスが飛躍する重要な年となると言われ、新技術における注目株のひとつです。Web サービスを簡単に説明すると、「ソフトウェアやシステムの機能をインターネットを通じて利用可能にしたもの」 です。例えば、海外オンラインショッピングの Web サイトを作ろうとします。世界中の人から注文が舞い込んできますので、円・ドルやユーロ・ドルなど為替換算の機能が必要となります。ところが、自分でリアルタイムに為替レートをどこからか入手し、それを基に通貨換算する仕組みを作り上げるのはそう簡単なことではありません。にもかかわらず外貨を取り扱うアプリケーションやシステムはみなこの機能が必要なのです。そこで誰かが 「通貨換算 Web サービス」 なるものを提供するわけです。インターネットを通してこのサービスにアクセスして 「いま1ドル何円?」 とデータを要求すればすぐに 「128円!」 などと答えが返ってくると考えてください。こういつた“サービス”が提供されれば、同じような機能を必要としている人が自分で手間をかけて作り上げることなく、このサービスを共有できるわけです。開発の効率化に大きなインパクトを与えそうだということは容易に想像がつきますね。

Web サービス関連の特殊表現

 さて、この Web サービスに関連していくつか特殊表現を理解しておく必要があります。まず、Web サービスを 「利用する」 ことを consume a web service と言います。経済用語で services は consume するものであることからこの consume が転用されたわけですが、日本語訳として 「サービスを消費する」 ではあまりに“経済原論的”な響きがします。ITのコンテクストでは普通に 「Web サービスを利用する」 と訳してください。一方、Web サービスを 「提供する」 ことは expose a web service と言います。これはサービスを利用可能にするために外部に向けて 「さらけ出す」 ということから expose を使っているわけですが、これも日本語訳では 「Web サービスを提供する」 あるいは 「Web サービスを公開する」 という表現が適切です。

 Web サービスの利用者と提供者がどのように情報を交換するかですが、ここに標準技術としてのSOAP (ソープ: Simple Object Access Protocol) というものが存在します。先の為替換算サービスでは、「今1ドル何円?」 -- 「128円です」 というようなやり取りをXML (eXtensible Markup Language を通じて行うわけです。こうした情報を a SOAP message (SOAPメッセージ) と言います。

 XML メッセージをインターネット上でやりとりするだけで様々な機能が利用できる―。Web サービスを全面的に押し出した Microsoft の新しい開発プラットフォームである .NET (ドットネット) が今年リリースされれば、Web サービス環境が一気に広まる可能性があります。翻訳に関連するサービスでも、すでに機械翻訳の Web サービスなどがスタートしています。今後IT関連の技術文書で XML は頻繁に登場してくる概念ですので、技術翻訳者としてはぜひとも理解しておきたい新技術のひとつです。

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