翻訳業界の進展のための情報に関する調査研究
平成12年度の調査研究の結果
調査研究委員会

1.調査研究の目的および実施状況

(1)研究調査の目的

 翻訳需要の拡大、翻訳業の円滑化、就業機会の拡大・安定化にインターネットの有効活用の検討を目的に、翻訳会社と翻訳者間のインターネットを介しての受発注等のやりとり、および翻訳時における利用状況に関する調査研究を行った。

(2)アンケート調査 

1)翻訳会社:E-メール・アドレスが明らかな翻訳会社328社に、E-メールのでアンケート調査票を送付した。この結果、92社からの回答を得た(有効回答数率:28.0%)。

2)翻訳者:昭和62年から実施されている労働厚生省認定・社団法人日本翻訳協会実施の翻訳技能審査1・2級合格者の内、E-メール・アドレスが明らかな個人372名にE-メールのでアンケート調査票を送付した。この結果、83人からの回答を得た(但し、有効回答数率:16.7%)。

(3)ヒヤリング調査

 上記アンケート調査を元に翻訳会社および翻訳者とも、インターネット利用に関し回答を積極的に寄せて下さった翻訳会社2社および翻訳者3人に対し、調査研究委員会委員によるヒヤリングを実施した。


2.調査結果概要

(1) 翻訳会社の調査結果概要
  • 回答翻訳会社のプロフィール:翻訳会社の規模のついての質問で20人以上と回答したのは14%、10人未満の会社が74%を占める(昨年の調査では10人以下が95%)。また外資系の翻訳会社は8%である。翻訳文書の種類では、マニュアルが約半数(47%)を占め、一般技術部文書14%、特許資料8%と続き、映像関連は0%となっている。
  • インターネットの利用状況:日本での商用インターネットの利用が始まった1994年から利用している会社が約半数の44%ある。ホームページの開設は約100%に及ぶ。翻訳オークションを目的としているところもわずかだが存在する。OCN、ODN等の低料金専用線接続が約半数を占める。最近注目されるADSLについても20%の比率で利用がある。大容量のファイルを利用するためか衛星による接続が5%あることは注目に値する。自社サーバの利用は26%だが、プロバイダの利用とホスティングサービスの利用と合わせると59%となりプロバイダをうまく活用していることがうかがえる。
  • 安全対策:コンピュータウイルスの驚異に十分対応している会社は68%にも上るが、一方で何も対策を取っていないとところが11%存在する。
  • ホームページの公開:掲載内容は、顧客向けの「会社概要」「サービス内容」が筆頭を占め、次に「翻訳者募集」と続いている。また「翻訳者プロフィール」や「実績表」を掲載している会社もあり、さらに「翻訳見積計算」のページを掲載しているなど、翻訳会社のホームページも各社の個性が表れている。自社のホームページのアクセス数を増やす手段としてバナー広告を活用している会社が28社(30%)あり、この中では検索サイトへの掲載(39%)が一番多く、翻訳のポータルサイトを利用している会社(18%)がそれに続く。
  • ホームページの効果:「翻訳者のリクルート効果がある」が57社(70%)に及ぶ。昨年の調査とは対象会社が違うが、昨年(43%)と比較するとかなりの増加となる。ホームページによる成約率が高いと答えた会社は67%にのぼる。また、インターネット利用による翻訳受注量の変化については、変化なしが32%だが、46%が翻訳受注量そのものが増加したと答えている。
  • インターネット利用による人事的変化:60%の会社が「優秀翻訳者確保」を上げている。インターネットを「使用できない翻訳者に仕事をださない」、または「減らす」翻訳会社が67社(80%)となり、翻訳者のデジタルデバイドの問題がクローズアップされている。
  • 翻訳ソフトと翻訳支援システム:機械翻訳システムを活用している会社は16%にすぎない。実際に使用してるソフトについてはかなり古いソフトも混在している。翻訳支援システムの利用は翻訳ソフト利用の約2倍、33%となっている。

(2)翻訳者の調査結果概要
  • 翻訳者のプロファイル:インターネットを使用し翻訳により収入を得ている者は62名で、分野別の資格保有状況は自然科学63%、社会科学31%、人文科学6%である。年齢層は20代の者は少なく、ほとんどが30代以上である。中でも60代以上の者が最も多く全体の35%を占める。翻訳就業の目的は、副収入を得るためとする者が全体の53%であり、主収入を目的とする者は37%である。業務形態は、会社勤務29%、自営が66%である。通勤を要する者は29%であり、在宅就業者が68%を占める。自営の翻訳者の受注形態は、翻訳会社等を経由する間接受注が68%を占める。クライアントから直接受注する者は29%に過ぎないが、年々増加する傾向が見える。翻訳者は1人当たり1?3台のパソコンを使用している。使用しているO/SはWindowsが92%と圧倒的多数を占めている。パソコンの通信接続の方法としてはISDNが約40%近くまで普及している。
  • インターネットの利用状況:インターネットの利用目的として最も回答比率が高いのは、翻訳内容に関する調査・情報入手の43%と翻訳原文または訳文の送受信の31%である。
  • ホームページの開設状況:個人としてホームページを開設している者は全体の約5%と少数ではあるが、昨年度調査時の約3%よりも率として若干増加している。クライアントからの直接受注への期待が表れている。
  • E-mailの利用:受注先との間でE-mailで頻繁に送受信されているのは、翻訳作業に必要な情報である。特に頻度が最も高いのは、納品(訳文)ファイルと原文ファイルの送受信である。作業指示情報、参考資料・用語集、および翻訳仕様書の送信頻度も高いが、これらは、いずれも発注側から一方的に伝達される情報である。
  • Webサイトの利用:翻訳一般に役立つフォーラム、辞書系サイト、出版系サイトと共に、特定分野の情報源として役立つサイトが利用されている。また、クライアントに関する情報入手のために、各クライアントのホームページも利用されている。
  • 売上の増減に関する効果:全体の16%に当たる翻訳者が、10%以上の売上増加と回答している。内5%の者は100%以上の売上増加と回答している。売上増加の理由は、翻訳業務自体の生産性の向上、および国内での受注活動の広域化と効率化である。翻訳業務に関しては、原文および訳文の受渡しの迅速化のほか、Q&Aや会議時間の短縮など、E-mail機能による生産性の向上が売上増に貢献している。
  • インターネット利用上の問題点:50%近くの者が取引相手の信用性に関する不安を挙げている。メールによるやり取りでは意志の疎通が不十分であるとする者も多い。また、コンピュータ関連の保守・更新作業や機器の利用法の学習に時間を取られるのが問題であるとする者が約25%にのぼる。その他としては、機器の故障やウィルス感染、コンピューターの長時間使用による健康への害が問題とされている。
  • E-ビジネスへの期待:インターネットを利用したE-ビジネス化により、将来どのように翻訳業務を展開して行くかについての発展的な構想を述べている翻訳者がある。ホームページを開設し、バーチャル・カンパニのような形式で複数の翻訳者が協力して作業を共有することを考えている者、インターネット上に掲示されているホームページを調べ、掲載記事の翻訳の需要を掘り起こして仕事にしようと考えている者などがある。

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